木の家の素晴らしさを訴え続ける「木綿(ゆふ)な暮らし」の著者、建築家の米谷成立さんに聞く

私は、平成20年に現在の会社である「木の家建築工房」を設立しました。もともと千葉県で「和三郎の家」という、ハウスメーカーやビルダーが真似をしたくてもできないような「手作りの家」「無垢の木と漆喰だけで作る家」を広めてきたのですが、さらに進化した家づくりを提案するために起業したのです。もちろん、これは私たちの考えに賛同してくださる工務店さんや材木店さんの全面的な協力があってのことでした。

現在の日本の住宅産業についてはさまざまな問題があると私は考えています。一つは資材の問題です。大量生産・大量消費の流れに乗って、耐久性のない資材が普及してしまっているのが現実です。その結果、シックハウス症候群等の現代病が蔓延する原因になってしまいました。

次に、技術者の不足。安価な建築資材の普及により、住宅建設というのは従来の大工による職人技から、現場で単に資材を組み立てるだけの施工法に変わっていきました。この結果、高度な技術を持った職人が少なくなっているのです。

三つ目が、販売競争による価格ダンピング。良い住宅をリーズナブルに提供するのは当然のことですが、その結果安価な建築資材や工法ばかりに頼ることになり、住宅が本来あるべき姿を失いかけているのでないでしょうか。

私はこれらの問題をクリアにし、そこに住む人が快適になる住まいづくりを進めたいと考えました。家のデザインや過剰な設備・システムが注目されるのではなく、そこに住む人たちのライフスタイルが見えてくる。そんな「住まい」を提案していきたかったのです。

もともと日本の伝統的な「住まい」というのは、豊かな自然と季節折々の四季を愛でることができる家でした。自然がもたらしてくれるそよ風を感じながら、外に広がる青い空と緑豊かな木々と共に生活できる家。そんな空間で過ごした時間というのは、何物にも代え難い大切な体験になるはずです。

ところが最近では、利便性を重視した集合住宅が多く建設されるようになり、一戸建てにおいても「個のプライバシー」が重視されるようになりました。子どもの個室が独立した機能を高め、そこで何が起こっているのか家族でさえもわからなくなっている家。私は、そんな家づくりには賛同できません。やはり家族全員のコミュニケーションが深まり、みんなが共同生活することの価値が高まる家づくりを考えていくべきだと思うのです。

本書では、「木の家建築工房」がこれまで手掛けてきた中から、代表的な10の施工事例を紹介させていただいています。「子どもたちが走り回る家」「森に溶け込むチムニーのある家」「街角にオアシスを感じる家」「暖炉と囲炉裏が迎えてくれる家」等々、どれも実に個性的な家ばかり。光や風が家の中に四方から入ってくる開放的な空間、使い込めば使い込むほど肌に馴染んでくる無垢板の質感、家族の会話を弾ませてくれる薪ストーブや囲炉裏…。写真を見ていただくだけで、それぞれの家族の幸せな暮らしぶりが想像できることでしょう。

今回、「木の家建築工房」の施工事例集を「書籍」の形で発表したのには理由があります。それは、私自身の考えを多くの人にきちんと伝えておきたかったからです。カタログのような冊子とか、CD-ROMのようなデジタルカタログにまとめる案もありますが、それでは単なる一般的な営業用ツールになってしまいます。やはり私たちの思想をきちんと伝えるメディアとして、「書籍」ほど最適なものはないでしょう。

カタログと違って簡単に捨てられませんし、興味のある方はずっと本棚に入れて保存しておいていただけます。弊社の社員教育にもなるという隠れた効果もあるのです。岩波ブックセンターから出版したことも、本書にアカデミックな価値を付加してくれることになりました。「住まい」づくりに対する私たちの真摯な思いをきちんと伝えるためには、とても大切なことだと思うのです。

本書は、弊社「木の家建築工房」の幕張モデルハウスにお越しいただいた方には無料で差し上げています。モデルハウスといっても、私たちが提案する「木の家」の住み心地を体感してもらうことが目的の、一風変わった空間です。決して営業マンが過剰に話しかけてきたりしませんので(笑)、ぜひ気軽に遊びに来ていただけると嬉しいですね。