幼い頃から貯めていたアルバム写真をカラーのエッセイ集にした「私が来た道」の著者、富岡陽子さんに聞く

「私が来た道」の著者、富岡陽子さん
私が来た道|富岡陽子/著
  • 私が来た道
  • 富岡陽子/著
  • A5判 110ページ
  • 上製本
  • オンデマンドカラー印刷
  • 制作部数:50部

昭和30年に結婚して以来、ずっと家族の歴史を写真の形にして残してきました。アルバムの数にして、34冊あります。1冊に150枚程度の写真が載っていますから、全部で5,000枚以上になりますでしょうか。これらの写真一枚一枚に、その時の思い出を書き込むのが私の趣味だったんです。

昔から文章を書くのが大好きだったんです。子どものころは、「綴り方」の授業が得意でした。親に買ってもらった「綴り方教室」の本を参考にして、いつも身の回りに起こったことを詳細に書き綴る作文を書いていました。兄や父の家庭での失敗談なんて、最高の題材です。私が書いた作文はしょっちゅう優秀賞に選ばれてみんなの前で発表されるものだから、同じ学校だった兄は、クラスの友だちに行動を暴露されてとても恥ずかしい思いをしていたようです(笑)

父が写真を撮るのが好きな人でしたので、アルバムを作ることは癖になっていました。結婚してから私は、写真をきちんと残していけば家族の歴史ができるかなと漠然と考えて、コメント付きのアルバムを作るようになったんです。何気ない写真にも、その時の思い出が詰まっています。私は「綴り方」で培った腕で、なるべく細かくエピソードを書き込むようにしてきたんです。

こんなアルバムのファンだったのが、今は亡くなってしまった私の弟でした。弟は陶器や掛け軸など、いわゆる「お宝モノ」を集めるのが好きな子だったのですが、私の家に来るたびに周りを物色しては「この家にはお宝判定で値のつくようなモノはなにもないけど、これだけは宝物だな」なんて言いながら、いつもアルバムを眺めてくれました。

川村二郎先生に促されて、写真集の発行を決意した

この膨大な写真を本にまとめようと思ったのは、「朝日カルチャーセンター」の講座「編集長のエッセイ教室」の川村二郎先生に写真をお見せする機会があったからなんです。エッセイ教室には二年間ぐらい通って、先生に文章の書き方を徹底指導された関係なのですけれど、教室終了後も親しくさせていただいています。

写真を見せると先生は、「モノクロの写真が、とくにいいねえ。今時にはない風景ですよ」とほめてくださりました。話はどんどん盛り上がり、昔の写真を元にしてエッセイを付け加えていけば、とても面白い本になると、写真&エッセイ集の制作を勧めてくださったのです。

この本を書くに当たり、写真にコメントを書き続けて良かったわ、と心底思いました。写真は自分たちの姿を映像の形で残してくれる素晴らしいものですけど、当時の思い出は言葉で書き留めておかないと忘れてしまいます。とくに最近私はもの忘れが激しくなってきてますから(笑)。日々のさりげない家族のエピソードの集まりが、私が幸せに生きてきた証しにもなります。

川村先生には序文も書いていただき、「読後感が爽やか」「子どもから見た戦争がきちんと描かれている」といった評価もいただきました。いつも書いた文章を見せると、信じられないくらいに真っ赤にされて戻ってくるだけに、とても嬉しかったです。「学校が焼けた日」というエッセイは、14歳の少女から見た戦争の貴重な記録との講評もいただきました。他人が読んで少しでも価値がある文章になっているなら、こうして本にまとめた意義があります。

「エッセイ集」の時には味わえなかった、カラー写真集ならではの充実感

私はこれまでに実は、二冊の書籍を作ったことがあるんです。どちらも自費出版のエッセイ集です。文章を書籍にするのはもちろん嬉しかったけれど、いつかアルバムに保存した写真をカラーの写真集にしたいという夢もずっと持っていました。自費出版以外にも、自分で写真を切り貼りして製本し、手作りの写真集を作ってきたくらいですから。

自費出版となるとモノクロのエッセイ集だけでも何百万円という費用がかかってしまうのに、カラーの写真集なんて夢のまた夢と考えていましたが、ブックメイドというシステムでは、安価なオンデマンド印刷タイプという形式があることを知って飛びつきました。オフセット印刷ではないので、写真集としては写真の質が今ひとつですよと事前に忠告してくれましたが、ぜんぜん問題ありません。むしろモノクロ写真については、時代がかった雰囲気が良く出ていてとても好評でした。部数も本当に必要な50部だけ印刷できたので、無駄にならなくてよかったです。

完成した本は、親戚や知人にプレゼントさせていただきます。みんなどこかのページの写真に登場してくれる、いわばこの本の出演者。一人ひとり別々にに手紙を書くのがまた楽しみなんです。本書を読み返すたびに、周りの人たちに感謝するばかりです。「私が来た道」という本のタイトルは、そんな私の感謝の心を表現してみました。