独自の取材によってエリーザベト皇妃の内面に 迫った伝記「シシーの世界」を出版した、 勝岡只さんに聞く

シシーの世界
シシーの世界|勝岡只
  • シシーの世界
    ─〈私家版〉評伝 私のオーストリア皇妃エリーザベト伝─
  • 勝岡只/著
  • A5版 496ページ
  • 並製本
  • オンデマンド印刷
  • 制作部数:50部(初版)
  • ISBN:978-4-909195-09-8

勝岡只(かつおか ただし)プロフィール

  1. 1934年東京生まれ。1953年日本交通公社入社、国内・海外・添乗業務のほか中央研修所講師、1996年退社。
  2. 講師歴:日本旅行業協会・指定講習、国際観光文化学院(常勤講師)、(株)交通公社教育開発(講師兼務)、立教大学観光研究所・公開講座、NHK生涯学習、東京交通短大(非常勤講師)、帝京大学・集中講義など。
  3. 著書:『旅行業入門②<手続実務編>』『旅行業入門③<添乗業務編>』『旅行業入門④<商品企画編>』『海外観光資源ハンドブック』『国内観光資源ハンドブック』(いずれも中央書院刊)

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シシーの世界 PDF版(4.4MB)

オーストリア皇妃エリーザベト(愛称シシー)のことは、最近では日本でもすっかりお馴染みになってきたと思います。ロミー・シュナイダー主演による映画「プリンセス・シシー」が公開されたのはもう半世紀以上も前のこと(1955年)ですが、ミュージカル「エリザベート」が宝塚歌劇団、東宝ミュージカルによって何度も上演され、人気を博してきたからです。自由を愛し、類なき美貌を誇ったハプスブルク王朝最後の皇妃エリーザベト。その波瀾万丈の生涯と、最後に暗殺されてしまう悲劇性が、多くの人たちの心を虜にするのかもしれません。

けれどもそれらはあくまで彼女の人生の一部にのみスポットを当てたにすぎず、本当の姿を正しく伝えているとは言えないでしょう。私はそれを是正させたいとの思いから、本書『シシーの世界』を書こうと思い立ったのです。

カイザーヴィラ
カイザーヴィラ(1994年著者撮影)

多くの資料を通して語られているエリーザベトの内面に踏み込んだ

エリーザベトに関する日本語の紹介は、エリーザベト伝記の第一人者であるブリギッテ・ハーマン女史の『エリザベート〜美しき皇妃の伝説』(朝日文庫)を初めとして何冊かありますし、私とほぼ同時期に小説家の藤本ひとみ氏が『皇妃エリザベート』(講談社文庫)という歴史小説を発表しました。

それらの本と『シシーの世界』の決定的な違いは、多くの資料を通して語られているエリーザベトの内面に踏み込んで、私の主観によって勝手に彼女の心の世界を描こうとしているところにあると思います。ロミー・シュナイダー主演の映画ではエリーザベトの生涯が甘い青春物語として描かれていますし、その他の作品では(王族や宮廷に対して)批判的な彼女の言動や、暗殺された悲劇性に同情することが中心で、最後には読者や鑑賞者にその判断が委ねられています。

それは伝記の常道、オーソドックスな紹介の仕方だと思いますが、私としては他の伝記作家があまり触れていないエリーザベトの心の内面に迫ってみたかったのです。もちろん研究不足や、見当違いがあるかもしれないのは覚悟の上です。本書の副題「〈私家版〉評伝 私のオーストリア皇妃エリーザベト像」に、私のそんな思いが凝縮されています。

アキレイオン
アキレイオン(2003年著者撮影)

シシーの生涯とは、何だったのか?

私は日本交通公社(現JTB)の添乗員として、これまで何度も世界各国を旅してきました。初めてヴィーンを訪れ、あの有名なヴィンターハルター作のエリーザベト肖像画に出会ったのは1968年のこと。それ以後も仕事でヴィーンを訪れる機会はありましたが、本気でエリーザベトの足跡を丹念に辿るには仕事の合間では不可能です。そこで1984年から10回にわたって自費による取材を敢行し、エリーザベトゆかりの地、ポッセンホーフェン、バート・イシュル、ザルツカンマーグート地方全域、ヴィーン、ブダペスト、ゲデレー、マイヤーリング、ミュンヒェン、ノイシュヴァンシュタイン城、コルフ島、メラーノ、ジュネーブなどを訪れました。

こうしてオーストリア各地で開催された展示会、エリーザベト博物館、ブダペスト国立博物館などを訪問、オペレッタ、ミュージカル鑑賞のほか、エリーザベトに関する著作を目につく限り収集していったのです。もちろんそれらの原書をただ単になぞるだけでは、わざわざ出版する意味はありません。私の創作の原点は「彼女の生い立ちから、死に至るまでの彼女の生きた時代背景をクローズアップしながら、彼女の人生なり行動なり思考なりについて知ることであり、それを自分なりに表現すること」だったからです。

私はどうしてここまでエリーザベトに惹かれ、執念のように時間をかけて本書を書き綴ってきたのでしょうか? 1つにはもちろん、彼女のたぐいまれなる美貌です。古今東西、美人といわれる女性は数多いのですが、エリーザベトの肖像画や写真を眺めると圧倒的な美しさに今でも見とれてしまいます。2つ目は、快活で幸せになるべきだった女性が、どうして時代、国家、家庭の試練に翻弄されて、悲劇的な生涯を閉じなければならなかったのか。3つ目は、エリーザベトがあの時代に、人生、世界、人間をどのように感じ取っていたのかということに対する関心です。もしかしたら彼女は、西欧的なキリスト教の世界観よりも、東洋的な仏教の世界観「無常の世界」を彷徨っていたのかもしれません。

そんな勝手な推論をまとめたものが、本書『シシーの世界』というわけです。私個人の思い入れの過ぎたエリーザベト像ではありますが、類書にはない世界が描き込めたと自負しています。2009年に50部限定の自費出版で制作した書籍です。「なんとかもっと多くの読者の目に触れる方法はないものか…」と模索していたところ、Kプランニングさんのサポートもあり、Kindle Direct Publishingのシステムを活用してペーパーバック本(オンデマンド印刷=注文毎の印刷製本)を販売できることになりました。

私の希望は、あくまで本書がエリーザベト研究の資料として後生に残ることです。そのため全ページのPDF無料公開もしますし、国立国会図書館にはデジタル書籍として納本します。本書が将来にわたって、たくさんの方々の目に触れることを願っています。

エリーザベト座像(正面)
エリーザベト座像(1989年著者撮影)

(註:ELISABETHの表記について)日本で翻訳されている書物その他のほとんどがエリザベートと表記されているが、本書文中ではドイツ語本来の読み方である「エリーザベト」を使用している。