天空にそびえる新世界で生きる人々の写真集「天空遊行」の著者、草間徹雄さんに聞く

写真集「中国少見」著者、草間徹雄さん
写真集Ⅱ「天空遊行」|草間徹雄/著
  • 写真集Ⅱ「天空遊行」
  • 草間徹雄/著
  • 210㎜×200㎜ 96ページ
  • 並製本
  • オフセットカラー印刷
  • 制作部数:300部
  • ISBN:978-4-904241-28-8

草間徹雄(くさま てつお)プロフィール

  1. 1950年生 茨城県在住。インド・中国・ベトナムの少数民族とチベット仏教の地を中心に撮影活動を実施。
  2. 日本写真協会会員。
【個展】
「中国少見 ─青海省・貴州省・広西チワン族自治区の情景─」(2010年)
「異郷Ⅰ ─中国青海省チベット族の祈り─」(2010年)
「異郷Ⅱ 日々是好日 ベトナム最北部 山村の暮らし」(2011年)
「異郷Ⅲ ヒマラヤに抱かれて ネパール 春の日々」(2012年)
「異郷Ⅳ 天空の村 ラダック・コルゾック村」(2013年)
「中国少見 青海省・貴州省・広西チワン族自治区の情景」(2010年)
「ヒマラヤに抱かれて~ネパール 春の日々~」(2011年)
「日々是好日 ベトナム最北部の秋」(2012年)
「ラダック 祈りの里の情景」(2013年)
「天空遊行 インド・ラダックを往く」(2013年)
【写真集】
「中国少見 ─西南地域の少数民族の情景─」(2011年)

ラダックとザンスカールはインド・ジャンムー・カシミール州に位置し、平均標高3,500mの天空の里です。この地域は1947年までイギリス植民地のカシミール藩王国であり、現在中国が実効支配しているアルサイチン、そしてフンザを含むパキスタンの一部を併せた王国を形成していました。イギリスの支配、さらにインドの独立、パキスタンの独立を通じて現在の国境線ができました。そのため、今でも国境紛争が絶えない危険な地域となっています。

面積は日本の60%であり、人口は約1,010万人。高山帯にあるため雨量も少なく乾燥しており、ほとんど木のない山が続き、広い農地も見られない荒涼たる風景が続きます。このような厳しい風土の中でも人々は麦や豆を栽培し、パシュミナ種の山羊や羊、そしてヤクなどを放牧しながら生活しているのです。

村の中心にはいくつもの僧院が建っています。僧院で行われるチャムという仮面劇には近隣の人々がたくさん集まり、ペラク帽(トルコ石をたくさん着けた帽子)をかぶってくる女性や子どもたちが屈託無く笑い、祈っていました。

撮影旅行を続けていくと、地域によって少しずつ変わっていく宗教や民族の変化が明らかになりました。ヒンズー教、仏教、イスラム教と、宗教が違えば民族も変化し、儀式も別のものになっていきます。

宗教の変化とともに民族の変化を追ってみる。天空の里の素晴らしい風景とともに、厳しい環境下に生きる人々の豊かな表情を紹介することが、今回の写真集のテーマであります。

ラダック 祈りの里の情景
天空の里(ラダック)の少女

物質的には豊かとはいえないが、幸せそうに暮らす人々の笑顔

取材全体を通じて印象的だったのは、物質的には決して恵まれているとは言えないのに幸せそうに暮らしている人々の姿でした。激しく流れる川沿いに進んでいくと、道路沿いには思いがけず、美しいブルーポピーの花が咲いていたりします。

途中、数年前の水害の痕跡もありました。この荒涼たる地に人がいるのかと思うのですが、オアシスのように点々と村があり、女性たちが平穏そうにピクニックをしています。その姿からは、どんな場所でも人は楽しく生きていけるというたくましさを感じることができました。

もちろんパキスタンに近いシュリーナガル等、印パ戦争の最前線になっていて軍人の姿があちこちに見られる地域もあります。これらの地域では、子どもたちが日常的に銃のおもちゃで遊んでいたりする。何気ない風景から、戦争の爪痕を垣間見てしまい、暗澹たる気持ちにもなりました。

しかし、ここでもまた美しい自然の姿が私の目を釘づけにしました。たとえば、ダル湖という山のわき水に発する淡水湖。ハウスボートというホテルから花売りボートや幻想的な朝の風景を眺められます。ラマダン明けの日には人々は新たな時間を迎え、服を新調し、祈りを捧げ、着飾った老若男女が市内の公園に集って楽しい時間を過ごしています。人々の日常生活は、実は何も変わっていないのです。

「天空遊行」というタイトルは、遊行上人と呼ばれた一遍上人からヒントを得て付けました。私たち日本人が忘れかけている精神的な豊かさを持つ「天空の里」の住民たちの営みを、本書でぜひご堪能いただければと思います。

デリー 世界遺産フマユーン廟の庭で遊ぶ家族
パシュミナ種の山羊や羊、そしてヤクなどを放牧しながらの生活