戦後70年の日本の歴史を、歌謡曲で振り返る「聴く戦後史」の作者、川口時弘さんに聞く

「聴く戦後史」の作者、川口時弘さん
「聴く戦後史」1945〜2015|川口時弘/著
  • 聴く戦後史 1945〜2015
  • 川口時弘/著
  • 四六判 340ページ
  • 並製本
  • オフセット印刷
  • ISBN:978-4-904241-65-3
「歌は世につれ」と言う言葉があるように、歌には世相を映し出し、各時代を生きた人々のさまざまな想いが刻み込まれている。それは歌が聞いて楽しむ手段であると同時に、作り手がメッセージを伝える手段でもあるからだ。本書はそんな考えを元に、戦後1945年から2015年に至る70年間の歴史を歌謡曲を素材にしながら考察していく。お馴染みの歌を口ずさみながら、戦後を生きてきた人々の喜怒哀楽の歴史を再確認できることだろう。

昔から、歌謡曲が好きでした。歌には、世相を映し出し、時代を生きた人々の思いが刻み込まれています。それぞれの歌が作られた背景を調べていくと、違った角度から戦後史を読み取ることができます。これまで私が調べてきた内容を、いつか一冊の書籍にまとめてみたいとずっと考えていました。ホームページで原稿を公開したこともあるのですが、やはり本には特別の思いがあります。どこかの図書館の倉庫の片隅でもいいので、いつまでも保存されるものを作りたかったのです。

原稿をまとめるにあたっては、3年ぐらいかかったでしょうか。いくら歌に詳しいと言っても、それはあくまで趣味の範囲。実際に本にまとめるとなると、一つひとつのエピソードの裏取りをしないといけません。昔から興味ある記事を見つけるとコピーを取ってファイリングする癖がありました。今回、改めてこの作業を徹底しましたね。そのため、集まった資料はものすごい量になりました。とてもファイルにまとめきれないほどの量だったので、すべてスキャニングして電子化してあります。もし本書の内容について問い合わせがあっても、いつでも情報の出典先を説明することができますよ。

JASRACへの著作権申請が、本書を作成する上での大きな鍵

制作する際に、気を使ったのは一点も「曇りのない本」にすることです。内容面ではもちろんですが、著作権使用の点でも完璧を目指したかった。そこで非常に重要視したのは、JASRACへの著作権申請。なにしろ本書には、70曲以上もの歌謡曲が掲載されています。歌がうたわれた背景について語る時、肝心の歌詞を掲載しなければ読者もピンとこないでしょう。しかし、そこで立ちはだかるのが著作権問題。本文中にも引用として使わせていただいた歌詞をすべてあげてみると、膨大なリストになりました。

ここからのJASRACへの手続きは、すべてブックメイド事業部に代行していただけたので本当に助かりました。しかもうまく交渉していただいて、利用料金は覚悟していたよりも大幅に安くなったのです。こうした交渉力は、さすがにプロの編集者といったところでしょうか。

カバーデザインも、まるで市販の本のような仕上がりでした。身近な歌謡曲から戦後の歴史を読み取っていくという本書の意図をみごとにデザイン化していただいたと感服しています。

歌謡曲から見えてくる戦後に生きた人々の喜怒哀楽

本書には、1945年~2015年まで、戦後70年間に日本人によってうたわれた歌謡曲が登場します。それぞれの年を象徴する一曲を選び、その年のエピソードを紹介していきました。こうして並べてみると、うたわれていたときにはまったく分からなかった時代とのつながりが、よく理解できると思います。「歌は世につれ」とはよく言ったもので、流行歌は時代の世相をみごとに映し出しているのです。

個人的には、1960年~70年代の社会の熱気と響き合った歌に憧れますね。年代的には一世代前になるので、リアルタイムに聞くことはできませんでした。この時代、反戦運動の中心にはいつもフォークソングがあり、歌は若者たちの主張の代弁者として機能していたと思うのです。歌には社会のゆがみを告発するだけでなく、変革する役割さえ期待されていました。今ではちょっと想像もできないパワーが秘められていた気がします。

戦後70年の市井の人々の動きを、本書によってもう一度振りかえっていただければ、著者としては非常にうれしいですね。

「聴く戦後史」で取り上げている歌のタイトル