ファールニエンテのスゴイ利用者たち

Kプランニング

障がい者の事業所でも、レストランを運営するのは最近では珍しくなくなりました。私が取材したなかでも、福岡県のレストラン柚の木(ファミレスのような大型レストラン)、山口県のフィオーレ(精神障がい者の人気レストラン)、佐賀県の漬けもん屋鉢瓶(伊万里の呉服店のリノベーション)、新潟県の和島トゥー・ル・モンド(旧小学校を改築したオシォレなフレンチレストラン)、京都府のあまづキッチン(自然に囲まれた観光レストラン)等々。印象的だったところをざっとあげただけでも、全国各地にあります。この他、うどん店、喫茶カフェ等も加えていったら、きりがないほどです。

そんな中でも、神奈川県にあるファールニエンテは利用者が活躍している点において他の追従を許さないスゴイ店でした。ここは市内の超人気店・プロローグ・プレジールの山本敬三シェフが全面支援しただけあって、開店以来ずっと連日満員が続いています。人気の秘密は、焼きたての美味しいパンと、敷地内の畑で収穫される新鮮な野菜を使ったパスタやピザ。2400㎡の敷地内には、レストラン&ベーカリー、専用駐車場、温室、野菜畑、小麦畑、ハーブ園、キッチンガーデン、樹木園、花畑などが揃っていて、住宅街の中のオアシスとなっています。

オープン前から行列が続くほどの人気店なので、厨房の忙しさも尋常ではありません。しかしファールニエンテの利用者たちは、決して職員の補佐役ではなくて主体的な料理人として活躍しています。たとえば、厨房を担当するAさん。11時に店が開店すると、次々と複雑なオーダーが寄せられるのですが、平然としてフライパンで2種類のパスタを仕上げつつ、隣の深鍋に投入した麺の茹で具合までチェックしています。一人でなんと、3つの仕事を同時並行でこなす。職員ですら、これだけの腕前を持つ料理人はあまりいないかもしれません。

名物の石窯ピザを焼くのは、Tさんです。その場で生成し、具材をのせたピザ生地を、石窯の中でこんがり美味しそうに焼いていきます。あくまで「焼き係」に徹しているそうですが、余裕があるときは、前工程もできるように特訓中とのこと。「具材の種類が多いピザはまだ無理ですが、マルゲリータなどは、1人で完全に作れるようになりました」と所長の鈴木さんは嬉しそうに語ります。平均して1日60枚以上のピザを焼き、多い日になると1日で100枚も焼くこともあるそう。これまた職員顔負けのピザ職人と言えそうです。

利用者たちの作業能力の向上は、経営的にも好循環を生んでいきました。ベーカリー部門でも利用者の能力が向上したので、調理補助を担当する臨時職員が少なくてすみ、人件費がどんどん減っているのです。レストランを運営する全国の施設で良く聞かれるのが、お客さんが来れば来るほどパート等の人件費が嵩み、赤字になってしまうというヘンな話です。利用者の能力が向上し、パートさんが不要になれば必然的に事業は安定し、結果的に工賃も向上していく。そのことをファールニエンテの事例は証明しているのです。

ピザを焼く利用者の写真奈邉を振る利用者の写真ファールニエンテの外観