工賃向上とともに必要なこと

Kプランニング

「工賃向上に必要な4つのチカラ」と題する戸原の講義では、「売るチカラ」の基本は「売ってやるぞ」というメンバーたちの強い意識だと強調しています。工賃向上セミナーの講義としては、なんとまあ単純な精神論だと呆れる方がいるかもしれません。でも、単純でいいのです。単純だからこそ、誰でも明日から実践できるはず。これまでいかにその単純な基本をおろそかにしていたかに気づいてもらえれば、それだけで研修会に参加した意義があるというものです。

販売力がスゴイという事例として私がよくあげる平成会の豆腐会員3,000人ノルマや、エコーンファミリーの「売り切るまで帰って来るな」という方針。こういう話を聞いて、「ウチの施設とは別世界」と諦めてしまう方がいるかもしれません。でも、どんな小さな施設でも、できることはあるはずです。たとえば、施設の皆さんは地元のバザーで今、商品をどんな風に売っていますか?

声が枯れるくらいに大きな声を出して、ホントーに精一杯、思いっきり売っていると、胸を張って言えますか? 厳しい言い方になりますけど、そうは見えない人たちがけっこういると思うのです。どこか照れくさそうに、遠慮がちに売っている。「今日はお客さんが少ないねえ」…と言い訳しながら、ボッーと立っている職員もいるはずです。そんな現場を、私はこれまで何度も見てきました。みなさんが本気にならなければ、商品は売れるはずがありません。当然、利用者もついてこないでしょう。

少し面白い事例として、栃木県のくわの実を紹介したいと思います。この施設では、パンや焼き菓子を中心とした、販売活動を行っています。その中心を担うのは、販売に特化した利用者たち。みんな、能力は決して高くありません。製造現場では力を発揮できないような人たちなのですが、ユニークなキャラクターを見込まれて販売専門要員となっています。

たとえばダウン症のHさんによる名人芸ともいえるセールストーク。若い女性のお客さんを見つけると、「お姉さん、綺麗ですねー」などと愛想をふりまきます。こんなふうに調子よく声を掛けられたら、買わないわけにはいきません。同じくダウン症の可愛い女の子のKさん。背の大きいイケメンのハーフ、片言の日本語しかしゃべれないHさん……。このようにくわの実の販売係は、ユニークな人材ばかり。そんな彼らが、行く先々で大声を張り上げることによって、事業は着実に拡大してきました。

現在の年間売上は、約3,600万円。月額平均工賃は約38,000円で、近いうちに40,000円以上にするそうです。B型事業所としては立派な実績と言えるでしょう。なによりも利用者たちが各地で大声を張り上げることによって、自分たちを地域にアピールできていることが素晴らしい。製品や仕事を通じて「福祉施設の存在価値」を、地域に伝えること。工賃向上を目指すとともに、これもまた就労系施設が果たすべき大切な役割なのです。

くわの実の利用者たち