2021年10月28日に、八戸市社会福祉協議会・八戸市障がい者就労支援団体ネットワーク会議からの今年2度目の依頼で、Zoomによる工賃向上セミナーを開催しました。今回のテーマは、「利用者の個性を活かした支援─アンバサダーマーケティングと障がい者アート」。まったく異なるように見える2つのテーマですが、私が日頃から訴えているのは「利用者の魅力を地域住民に訴えることが、施設にとっては最大の広報ツールとなる」ということ。ですから私の中では、とくに違和感はないのです。
「障がい者アート」については、以前茨城県の施設の職員研修でお話しさせていただいたことがありますが、就労支援団体主催では初めての試み。どちらかというと生活介護事業としての活動として注目されている障がい者アートですが、就労事業の作業としても取り組んでほしい。そのための具体的な活動案までを提起した講義となりました。これまでの講義と違い、どんな反応があるのか? 非常にコワくもありましたが、まずまずの反響だったと思います。いくつか参加者の声を紹介してみましょう。
◎ちょうど施設で取組み始めようとしていたテーマだった。
◎利用者を増やすためのアンバサダー、利用者の営業活動のアンバサダー、利用者の一般就労のためのアンバサダーをつくれるような施設を考えてつくろうとあらためて思った。
◎個性+ビジネスの可能性を感じることができた。
◎障がい者芸術活動の可能性や活用性、具体的な事例や手法を知ることができた。
◎障害者アートについて普段の思考には不足してたが、支援者として才能を見極める知識を持つことの必要性について再認できた。
◎既存の作業にとらわれない新しい可能性を感じました。
もちろん、施設職員にとってもっとも苦手と言われているアートについてのお話なので、こんな反応が出てくるのも仕方ありません。
◎絵の感じ方、人それぞれだと思うのですが、手を挙げなかったらセンスがないのですね。よくわかりました。自分は絵で生きていけない人たちとがんばります。
◎体調安定の為に絵を書いてもらう事もあるが、今回の研修ではその事を否定されたような気がした。あくまでも本人の満足度を大事にすることが大事だと思うが必ずしも販売、展示する必要はないと思われる。
障がい者アートを考える上では、芸術活動(プロの活動)と美術活動(趣味の活動)をしっかり分けていく必要があります。講義で何度も繰り返したのですが、私は趣味の活動を否定するつもりはさらさらないし、障がいのある人が人間性を育む上で大切な活動だと思っています。しかしながらそんな趣味のレベルの美術活動を「障がい者はみんなアーチスト」みたいな切り口でアピールすることは、絶対にあってはならない──これもまた事実なのです(詳しくは、拙著『障がい者アートバンクの可能性』中法法規刊を参照)
それと同時に、障がい者の絵画活動は「体調安定の為にやっていることであり、本人の満足度を大事にすることが大事」「必ずしも販売、展示する必要はない」という意見は、私にはまったく理解できません。講義では、絵画の見方の実践編として実際にいくつかの障がい者アートを見ていただきました。ほとんどの方が「?」という反応だったのに、ヨーロッパではそれらの作品が絶讃されていて、個展も開かれているという事例を紹介しました。グッズとして採用され、高額の使用料が支払われたケースもあります。こういう話を聞いて、現場の職員は危機感を感じないのでしょうか? あなたの見識のなさが、もしかしたら利用者たちの秘められた才能を見逃すことになっているかもしれないのですよ!
「自分は絵で生きていけない人たちとがんばります」などと、しらっと言っている場合ではありません。知的障がいのある人たちは、重度であればあるほど優れた芸術的才能をもっている(可能性が高い)ことは、今や公然の事実です。少なくとも障がい者支援に携わる福祉職員であるならば、そのことにしっかりと向き合い、「自分が分かる、分からない」「絵画を見極める能力がある、ない」は別として、アートへの興味と、それを活かした就労支援事業への取り組みを考えるべきでしょう。
今後も私は機会がある毎に、このテーマについての私の考えを関係者に伝えていきたいと考えています。これも工賃向上を考える研修会としては、大切なテーマとなるはずです。機会を与えてくれた八戸市社会福祉協議会の松坂さん、有り難うございました。