ありのままで良しとされる世界(「働く広場10月号掲載」)

Kプランニング

◎団員たちの特技を活かした仕事づくり

これまで全国の障害者就労支援施設で取り組んでいる多様な支援事例を紹介してきた。共通しているのは、利用者たちの個性を最大限に活かし、人に仕事を合わせるという考え方である。

最後にもう一つ、奈良県にある就労継続支援B型事業所「なないろサーカス団」を紹介しておきたい。

この施設の特色は、障害のある人たちを「なないろの個性を持つサーカス団員」と定義しているところである。中川直美理事長は、その意図を次のように語っている。

「(知的)障害のある人たちは、決してチャリティの対象になるような存在ではありません。むしろ一人ひとりがみなユニークな表現手段を持っていて、とてもチャーミングな人たちなのです。その魅力をきちんと伝えれば、もっと地域の人気者になると考えました」

そこで利用者のことをあえて「団員」と名付け、彼らが持つ個性に寄り添った仕事づくりを行った。料理が得意な人には、ランチ担当シェフを任せる。絵画や人形作りが得意な人は、創作活動に専念してもらう。手工芸品を人にプレゼントするのが趣味の人には、「人を幸せにする」という大切な役割がある。

彼らの個性を積極的にアピールしながら住民との密接な協力関係を作り、それを「商品」にするという地域密着型の事業展開を繰り広げている。

◎障害のある人の個性が求められる時代

こうした発想から、地域に住む高齢者を対象とする御用聞きサービスへと進化していった。ひとり暮らしの高齢者にとって、知的障害のある人たち独特の「人なつこさ」「満面の笑顔」は、心の癒やしになる。「電球の玉を替えてほしい」「ゴミ出しをしてほしい」「お弁当を届けてほしい」という要望に応える生活サポートサービスは、今後ますます求められていくのではないか。

さらにアイデアを膨らませてみよう。たとえばダンスが得意なダウン症の人たちとプロのフィットネスインストラクターがコンビを組み、地域住民を対象としたエクササイズ教室を運営してみる。あるいは、しゃべることだけは卓越した能力を持つ障害のある人が、カフェでお客さんと雑談を交わすことを専門の仕事にする……。

障害のある人たちが不自由な身体を駆使して苦手な作業をするのではなく、天性として持っている才能を使うだけで立派な仕事になる世界。存在そのものが価値であり、地域の人たちから必要とされる世界。それはまさに、彼らが「ありのままで良しとされる世界」の実現だろう。

◎多彩な能力を持つ支援者を集めよう

近年、厚生労働省は「我が事・丸ごと」地域共生社会をめざした地域づくりを積極的に推進している。その中心的な役割を、ぜひとも障害のある人たちにも担ってもらいたいというのが私の考えである。

福祉の専門家だけでなく、多様な職種、多彩な能力を持った支援者を集めることで、それは初めて可能になる。これまでの発想では、考えもつかなかった人材の発掘。福祉の世界など、まったく無縁だった人材の勧誘。彼らを障害のある人たちと交えることで、革新的な化学反応が生じるはずなのだ。

ぜひとも各地で、多様でユニークな就労支援活動が次々に生まれていくことを期待したい。

働く広場10月号